PCR経験者が語る新型コロナウイルスの検出で用いるPCR検査とは

遺伝子教室

世界各地で猛威を振るっている新型コロナウイルス。
感染者が増加しており、日本では第3波が来ています。

新型コロナウイルスの感染を調べるのにPCR検査が実施されていますが、
皆さんはPCR検査がどういうものかご存じですか?

PCR検査の仕組みを知ることで、新型コロナウイルスの理解がより深まるのではないでしょうか。

そんなPCRですが、私は大学の研究室で、数えきれないほど行ってきました。
というのも、私自身は大学で植物ウイルスを研究しており、研究する上でPCRは必須の技術でした。

この記事では、自信の経験をもとに、PCRで新型コロナウイルスの感染が検出できる仕組みを解説します。

 

そもそもPCR検査とは?

PCRは、polymerase chain reactionの略で、日本語ではポリメラーゼ連鎖反応と呼ばれます。微量のDNAから、特定の遺伝子などを選択的に増やすことができます。

今までの方法に比べて簡単なことから、遺伝子解析や遺伝子工学の分野に大きな技術革新をもたらしました。
また、医療の分野や犯罪捜査でも、このPCRの技術が用いられます。

PCR検査は、PCR技術を用いた検査方法です。

例えば、がんに特徴的な遺伝子が存在するのかを調べることでがんを診断したり、ウイルス遺伝子があるのかを見ることで、ウイルスに感染しているのかを検査します。

 

PCRの原理について解説

PCRは以下の3つのサイクルを繰り返すことで、DNAから特定の箇所を選択的に増やします。

  1. 二本鎖のDNAの乖離
  2. プライマーの結合
  3. DNAポリメラーゼによる引き伸ばし

1.二本鎖のDNAの乖離

DNAは二重らせん構造で存在し、二本の鎖が水素結合と呼ばれる力でくっついています。
温度を94度~98度にすることで水素結合が切断され、一本鎖になります。

2.プライマーの結合

プライマーは増やしたい部分の初めにくっつくとても短いDNAです。
イメージとしては、秘伝のタレを作る時の継ぎ足し。増やしたい部分が今回作りたい秘伝のタレ、プライマーが継ぎ足し部分にあたります。

50~65度に温度を下げることで、増やしたい領域にプライマーがくっつきます。

3.DNAポリメラーゼによるDNA鎖の伸長

温度を68度~72度に上げると、DNAポリメラーゼという酵素がプライマーを足掛かりにして、DNAを合成していきます。

 

この3つのサイクルの繰り返しにより、微量のDNAから特定の遺伝子などを増やすことで、検出を可能にします。

なぜウイルスが検出できる?

ウイルスは人間と同様にDNAを持つものもいれば、DNAとはすこし違うRNAを持つウイルスもいます。

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、RNAをもつウイルスです。そのため、PCRだけでは検出できません。

そこで、RT-PCRという方法を用います。

RT-PCRのRTは、Reverse Transcription(逆転写)の略で、RNAからDNAを合成します。
そして、合成したDNAを用いて、ポリメラーゼ遺伝子といったウイルス特有の遺伝子をPCR法を用いて検出します。

新型コロナウイルスの検出の流れを整理すると、以下の図のようになります。

 

実はそんなに精度は高くない⁉

新型コロナウイルスのPCR検査の感度、すなわち感染者を正確に当てられる確率はどれぐらいだと思いますか?

東京大学保健センターによると約70%だそうです。
つまり、1000人検査した場合、内300人はコロナウイルスに感染していても、陰性と判定されてしまうわけです。

この感染しているのにも関わらず陰性と判断されてしまうことを「偽陰性」といいます。

では、なぜ偽陰性が起きてしまうのか?
様々な理由が考えられますが、大学での実験の経験から、以下の理由でも偽陰性が起こると考えています

  • 検体を正しく採取できていない
  • RNAの扱いが難しい
  • プライマーの精度
  • コンタミネーション
検体を正しく採取できていない

新型コロナウイルスに感染しても、採取した鼻の粘液、あるいは唾液がたまたまウイルスが含まれていない箇所だったために、
ウイルスが検出できなかったという可能性があります。

RNAの扱いが難しい

さきほど、新型コロナウイルスはRNAをもつと紹介しました。このRNAですが、DNAに比べると非常に不安定で、分解されやすい性質があります。
そのため、RNAからDNAを作る逆転写の前に、RNAが分解されてしまうことが考えられます。

プライマーの精度

プライマーは増やしたい部分の初めにくっつくとても短いDNAです。
このプライマーがほかの箇所にくっつきやすいと、目的とは違う箇所が増えてしまう可能性があります。

コンタミネーション

コンタミネーションとは「混入」という意味で、実験中に空気中のほこりや人の唾液などが混入してしまうことです。
ほこりや唾液、汗などにはRNAaseというRNAを分解してしまう酵素が存在するため、実験中はコンタミネーションを防ぐことが重要です。

 

まとめ

  • PCR検査とは、微量のDNAから特定の遺伝子などを選択的に増やすRCR技術を用いた検査方法である
  • PCRは、温度を変化させ、二本鎖のDNAの乖離、プライマーの結合、DNAポリメラーゼによるDNA鎖の引き伸ばしの3つのサイクルを繰り返す
  • RNAをもつウイルスでは、RT-PCRという方法を用いる
  • PCR検査の感度は約70%であり、様々な理由で偽陰性が起こる
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